そけいヘルニア(脱腸)

hernia
そけいヘルニア(脱腸)

そけいヘルニア(脱腸)は、手術で治す病気です。
当院では術後の痛みが少ない腹腔鏡手術を積極的に取り入れています。

気恥ずかしさからか、悪化するまで放置される方も多い「そけいヘルニア」。お薬では治すことができないので、完治には手術が必要です。放置すればするほど悪化の一途をたどる病気なので早めの診察が大切です。

そけいヘルニア(脱腸)とは

そけいヘルニアは、鼠径部(太ももの付け根)に近い下腹部の筋肉の弱い部分から、組織(通常は腸の一部や内臓脂肪)が突出することで起こります。この突出は目立つ膨らみを形成し、咳をしたり、前かがみになったり、重いものを持ち上げたりするような動作の際に、より顕著に痛みます。痛みは鈍い不快感から激しい痛みまであり、膨隆部の灼熱感や疼痛を伴うこともあります。

この状態は「脱腸」とも呼ばれ、年間約13万人が日本で手術を受けている比較的一般的な病気です。そけいヘルニアは男性に多く見られ、特に小さい子どもや中高年の男性に多いとされています。女性の場合、子宮を支える靭帯の経路が関係しており、発症する可能性があります。男性の場合、特に睾丸が通る道の筋肉の薄さが原因とされています。

そけいヘルニア(脱腸)になりやすい方

  • 40代以上の方
  • 咳をよくする方
  • 妊娠している方
  • 過激な運動をする方
  • お腹に力がかかる仕事をしている方
  • 立ち仕事に従事する方
  • 便秘症の方
  • 肥満ぎみの方
  • ヘルニアになりやすい方

    そけいヘルニア(脱腸)の種類

    そけいヘルニア(脱腸)の種類

    そけいヘルニア(脱腸)は、外そけいヘルニア、内そけいヘルニア、大腿ヘルニアの3つに分類されます。

    外そけいヘルニア

    外そけいヘルニアは、乳幼児から成人にかけて発症する最も一般的な脱腸です。先天性のものも多く、腸や膀胱が鼠径管という腹壁の通り道を通って突出し、出生後に閉じるはずの管が閉じないために起こります。発症すると、そけい部が膨れ、内そけい輪から小腸が飛び出します。若年層や中高年層によく見られ、小腸が陰嚢まで脱出する可能性があります。

    内そけいヘルニア

    内そけいヘルニアは、中年以降の男性によく見られるタイプであり、通常、加齢や緊張、肉体労働が原因で起こります。時間の経過とともに腹筋が弱くなり、内そけい輪より内側のそけい三角から腸が押し出されて飛び出します。腹壁を突き破り、そけい部のやや内側が膨れてヘルニアが発生します。

    大腸ヘルニア

    大腿ヘルニアは主に女性に見られ、特に出産経験がある高齢の女性によく発生します。症状として、そけい部の下の太ももが膨らみ、足の血管側に突き出ることがあります。このヘルニアは嵌頓しやすいため、早めの治療が必要です。

    そけいヘルニア(脱腸)の原因

    そけいヘルニアの原因は、大きく先天性と後天性の2つに分けられます。

    先天性

    先天性のそけいヘルニアは、生まれつき鼠径部にある筋肉や筋膜が弱いために起こります。具体的には、鼠径管という、胎児期に睾丸が体外に出るために使われる管が閉じずに残ってしまうことが原因です。

    後天性

    後天性のそけいヘルニアは、加齢や肥満、腹圧の増加などの原因で、鼠径部にある筋肉や筋膜が弱くなったために起こります。
    具体的には、次のようなものが原因として考えられます。

    • 加齢による筋肉や筋膜の衰え
    • 肥満による腹圧の上昇
    • 重労働やスポーツなどの腹圧のかかる活動
    • 妊娠・出産による腹圧の変化

    そけいヘルニアは、男性に多い病気です。これは、男性には鼠径管があり、睾丸が体外に出るために使われるからです。女性にも鼠径管がありますが、通常は閉じています。しかし、妊娠・出産などの影響で鼠径管が開きやすくなり、そけいヘルニアを発症することがあります。

    そけいヘルニア(脱腸)の症状

    そけいヘルニアの症状は、主に以下の3つです。

    鼠径部の腫れや膨らみ

    立ったり、腹圧をかけたりすると、鼠径部に柔らかい腫れ(脱出物)が現れます。横になると、腫れが引っ込むのが特徴です。

    痛み

    腫れが大きい場合や、腸管がヘルニア嚢に挟まって血流が悪くなると、痛みが生じることがあります。

    不快感や違和感

    腫れや痛みがないこともありますが、鼠径部に不快感や違和感を感じる場合もあります。特に咳やくしゃみ、体を曲げる動作、重いものを持ち上げると症状が増すことがあります。

    嵌頓(かんとん)状態

    放置すると、嵌頓(かんとん)という状態になることがあります。これは、腸の一部がヘルニア門に挟まり込んで、おなかのなかに戻らなくなってしまった状態で、早めの治療が必要です。嵌頓を放置すると腸が虚血(血流が減少、または途絶えること)の状態となり、腸閉塞(腸のなかで滞ってしまう病気)が起こります。

    そのため、症状が現れたら早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。

    なお、そけいヘルニアは、男性に多く、50歳代以上での発症が多いとされています。また、肥満や慢性的な咳、便秘などの習慣がある人は、そけいヘルニアを発症するリスクが高くなると考えられています。

    そけいヘルニア(脱腸)の検査方法

    そけいヘルニアの診断は、患者の話を聞く問診や患部の目視・触診が基本となります。立った状態で鼠径部や陰嚢の膨らみを感じたり、患者に咳をしてもらうことでヘルニアがより目立つことがあります。これだけではヘルニアの種類や他の病気との鑑別が難しいことがあるため、超音波検査、CT、MRIなどの画像検査を行うことにより、確定診断をつけたり、ヘルニアの大きさや内容を評価することもあります。

    そけいヘルニア(脱腸)の治療方法

    従来の手術

    そけいヘルニアの治療には主に2つの方法があります。一つは自身の組織を用いて弱った部分を縫い合わせる方法で、この場合は再発のリスクが高く、手術後の痛みが強く長引くことがあります。もう一つは人工物(メッシュ)を使用する方法で、これが現在の主流です。メッシュを用いた治療は再発が少なく、手術直後の痛みも軽いですが、感染のリスクがあります。手術には、開腹手術(従来法)と腹腔鏡下手術の2種類があり、後者は回復が早く術後の痛みも少ないという利点があります。

    小さくて無症状のそけいヘルニアの場合は、すぐに手術する必要はありませんが、定期的な経過観察を行うことが重要となります。また、生活習慣の改善、例えば体重管理や重い物を持つことの回避、慢性便秘の対処なども、症状を和らげそけいヘルニアの悪化を防ぐのに役立ちます。

    自然治癒は期待できず、手術が唯一の治療法とされています。初期段階では、症状が日常生活に支障をきたさないこともあり、治療が後回しにされがちですが、嵌頓状態になると緊急手術や腸を切除しなければならなくなるといった重篤な状態となるため、注意が必要です。

    開腹手術と腹腔鏡手術の違い

    そけいヘルニア手術には開腹手術(鼠径部切開法)と腹腔鏡手術の2つの一般的なアプローチがあり、それぞれ異なる利点と欠点があります。

    開腹手術(鼠径部切開法)

    利点

    • 手術時間が短い(片方約40分程度)
    • 手術器具や手技が確立されており、技術的に難易度が低い

    欠点

    • 傷が大きい(片方約4cm程度)
    • 術後合併症の慢性疼痛の頻度が高い
    • 隠れた別のそけいヘルニアが見逃されることがある
    • 両側のそけいヘルニアは、両側に傷ができてしまう

    腹腔鏡手術(内視鏡手術)

    利点

    • 傷が小さく、痛みが少ない(5mm〜10mmの傷が3ヶ所のみ)
    • 術後合併症の慢性疼痛が少ない
    • 入院日数が短期間になる
    • 両側のそけいヘルニアを同じ傷で同時に治療が可能
    • 隠れた別のそけいヘルニアを見逃さない

    欠点

    • 手術時間が長くなることがある(60分程度)
    • 習熟した外科医の技術が必要

    開腹手術と腹腔鏡手術は、それぞれに利点と欠点があります。

    開腹手術は、手術時間や手術器具、手技が確立されており、技術的に難易度が低いため、比較的安全に手術を行うことができます。一方、傷が大きく、術後の痛みや腫れが大きいなどの欠点があります。
    腹腔鏡手術は、傷が小さく、術後の痛みや腫れが小さいなどの利点がありますが、手術時間や手技がまだ確立されていないため、技術的に難易度が高くなるという欠点があります。

    近年は、腹腔鏡手術の技術が進歩し、安全性も高まっています。そのため、多くの医療機関で腹腔鏡手術が第一選択肢となっています。
    ただし、腹腔鏡手術がすべての患者様に適しているわけではありません。腹部の手術既往がある場合や、年齢等により合併症のリスクが高い場合などは、一般的に開腹手術が選択されることもあります。

    腹腔鏡手術

    当院では、腹部の手術歴がある方や再発症例、高齢者の方においても、日本内視鏡外科学会の技術認定医の2名が中心となり、ほぼ全ての症例を腹腔鏡手術で施行しております。

    そけいヘルニアでお悩みの方や心配な症状がある方は、一人で悩まずに早めに受診をされることをおすすめします。

    腹腔鏡手術の流れ

    01

    初診~入院

    初診では、しっかりと問診と診察を行います。
    手術の必要性の有無、手術が可能かどうかを決定します。

    手術が必要となる場合には、手術前検査を受けていただきます。
    手術前検査は、血液検査、心電図検査、レントゲン検査、呼吸機能検査の他、必要に応じてCT検査や心臓機能検査等を受けていただきます。

    手術の日程を決定します。

    手術についての説明を受けていただきます。
    手術についての内容、用意していただくもの、入院までの生活の注意事項などについて説明をさせていただきます。ご不明な点がございましたら、ご遠慮なくお聞きください。

    02

    入院~退院

    入院当日

    ご予約のお時間に来院してください。
    手術前のチェックや準備をさせていただきます。

    手術当日、術前

    手術着に着替え、スタッフが手術室に案内します。

    手術

    麻酔は、麻酔科専門医による全身麻酔になります。
    そけいヘルニア手術は約1時間で終了します。
    手術後は、麻酔が十分に覚めた後、病室に戻ります。

    術後

    術後の状態により、飲水の摂取を行っていただきます。
    多くの患者様が自力で歩行可能で、トイレにも行けます。
    痛みがある場合は適切な痛み止めを使用し、コントロールします。

    退院後の注意事項の説明を受けていただきます。
    次回の受診日を決定します。
    必要な処方薬がある場合には、お持ち帰りいただきます。

    診察(手術結果報告)/退院

    医師が診察し、手術結果を説明します。帰宅の基準がクリアされれば退院です。

    帰宅

    帰宅後は通常の食事が可能です。帰宅後の痛みは内服の鎮痛剤で管理可能です。
    24時間医師と連絡が取れるので、安心してお過ごしいただけます。手術当日の体調不良があれば迅速に対応いたします。

    03

    退院後

    食事は通常通りに行っていただけます。
    痛みは内服薬でコントロール可能な程度であることがほとんどです。
    創の消毒は必要ありません。
    退院当日はシャワーが可能です。その後は普通に入浴していただけます。
    社会復帰の時期は個人差がありますが、一般的に退院後から仕事や学業に復帰できます
    退院後は2週間程度は激しい運動は避けてください。
    痛みが強かったり、創が腫れるといったことや何か気になることがあれば、どんな些細なことでもお気軽にご連絡ください。
    次回の受診予定日までに何か急なトラブルがあれば、いつでも受診可能です。お気軽にご連絡ください。

    そけいヘルニア(脱腸)の手術実績

    腹腔鏡 従来法
    2022 86 0
    2021 81 0
    2020 77 3
    2019 72 0
    2018 43 2
    2017 20 10
    そけいヘルニア(脱腸)の手術実績

    当院の強み

    01

    年間の腹腔鏡手術80件 以上(2022年度実績)

    02

    手術のほとんど100%を腹腔鏡手術で施行

    03

    日本内視鏡外科学会 技術認定医2名が在籍

    手術費用

    1割負担 3割負担
    約6万円 約16万円

    差額ベッド代は別途

    こんな症状ありませんか?

    こんな症状ありませんか?

    脚の付け根あたりに

    • 突っ張り感
    • 不快感や違和感
    • 内臓が引っ張られる感覚
    • 鼠径部(太ももの付け根)の膨らみ
    • お腹に力を入れると膨らみが大きくなる
    • 横になると膨らみが小さくなる
    • 痛みや違和感
    • 吐き気や嘔吐 など

    上記の症状に心当たりのある方は一度受診をおすすめします。

    よくあるご質問

    そけいヘルニアとは何か?

    そけいヘルニアは、腹部の筋肉が弱まった部分を通じて、腹腔の内容物が飛び出す状態を指します。主に腸や脂肪が、鼠径部(股の付け根)近くの腹壁を突き破ってしまうことを言います。

    そけいヘルニアの主な症状は何か?

    主な症状には、鼠径部の膨らみ、痛み、違和感があります。立っている時や咳をした時に症状が顕著になることが多いです。

    そけいヘルニアの原因にはどのようなものがあるか?

    そけいヘルニアの原因には、先天的な腹壁の弱さ、加齢による筋肉の弱化、慢性的な咳、便秘、重い物の持ち上げなど、腹圧を高める活動が含まれます。

    嵌頓(かんとん)ヘルニアとは何か?

    嵌頓ヘルニアは、ヘルニアが腹腔に戻らなくなり、血流が妨げられる緊急を要する状態です。これは急いで医師の診察を受ける必要があります

    どのような職業や活動がそけいヘルニアのリスクを高めるか?

    重い物を頻繁に持ち上げる職業や、腹圧が高まるスポーツ(ウエイトリフティングなど)がそけいヘルニアのリスクを高めます。

    そけいヘルニアの自己診断は可能か?

    鼠径部に膨らみや痛みがある場合、自己診断は可能ですが、正確な診断と適切な治療のためには医師の診察が必要です。

    ヘルニアバンドは予防に有効か?

    ヘルニアバンドは、既存のヘルニアの症状を和らげるのに役立つことがありますが、ヘルニアの発生を予防する効果は限定的です。重い物を持つ際のサポートとして使用することは有効ですが、ヘルニアの発生を完全に防ぐものではありません。

    そけいヘルニアはいつ医師に診てもらうべきか?

    鼠径部に膨らみや痛み、違和感がある場合、特にそれが日常生活に支障をきたすようであれば、早めに医師の診察を受けるべきです。

    そけいヘルニアの治療方法にはどのようなものがあるか?

    そけいヘルニアの治療方法は、手術が基本になります。ただし、症状が軽度で日常生活に大きな支障がない場合は、経過観察をすることもあります。症状の程度や患者様の全体的な健康状態によって治療法を決定いたします。

    手術にはどのような種類があるか?

    主な手術方法には、鼠径部切開法と腹腔鏡手術があります。

    鼠径部切開法と腹腔鏡手術の違いは何か?

    鼠径部切開法は、鼠径部に直接切開を入れてヘルニアを修復する方法です。腹腔鏡手術は、小さな穴を数か所開け、特殊な器具とカメラを使用してヘルニアを修復します。腹腔鏡手術は侵襲が少なく、回復が早いことや再発が少ないことなどが特徴です。

    手術のリスクや合併症にはどのようなものがあるか?

    手術には感染、出血、神経損傷、再発などのリスクがあります。また、まれに麻酔による合併症が起こることもあります。

    手術後の再発率はどのくらいか?

    手術後のヘルニアの再発率は一般的に低いですが、手術方法や個々の患者の状態によって異なります。日本内視鏡外科学会のアンケート調査によれば、再発率は、腹腔鏡手術0.4%~3%、メッシュを使用した鼠径部切開法1%~22%、メッシュを使用しない鼠径部切開法2%程度とされています。

    手術後の痛みはどの程度か?

    手術後は一時的な痛みや違和感が生じることがありますが、通常は数日から数週間で改善します。

    手術後の生活に制限はあるか?

    手術後は、2週間程度は、重い物の持ち上げや激しい運動を避けるようにしてください。

    入院期間はどのくらいか?

    手術の前日の午後に入院していただきます。手術後の状態にもよりますが、手術の翌々日の退院となることが殆どです。(3泊4日)ただし、状態によって手術翌日の退院が可能なこともありますので、ご希望の方はお申し出ください。

    手術後のフォローアップはどのように行われるか?

    退院後は、外来にて、痛みの管理や回復状況の確認がなされます。必要に応じて追加治療が行われることもあります。通常1〜2回の受診で終了することが多いです。

    症状が軽い場合も手術が必要か?

    症状が軽い場合や日常生活に支障がない場合、早急な手術は必ずしも必要ではありません。ただし、手術をしないと治らないため、一度受診をしていただき、ご相談ください。

    手術を受けない場合のリスクは何か?

    手術を受けない場合、そけいヘルニアは悪化する恐れがあります。特に嵌頓ヘルニアの場合、腸などの組織が挟まれ血流が遮断されると、組織が壊死するリスクが高まります。また、痛みや不快感が継続し、日常生活に支障をきたす可能性もあります。

    手術の最適なタイミングはいつか?

    手術の最適なタイミングは、ヘルニアの大きさ、症状の程度、患者様の全体的な健康状態によって異なります。一般的に、症状が進行しているか、日常生活に支障をきたしている場合は早めの手術が推奨されます。医師の診断と相談が重要です。